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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)353号 判決 1949年7月28日

被告人

伊藤治勇

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人大池龍夫の被告人両名に対する控訴趣意は別紙の通りである。よつて、原審第一回公判調書の記載を見るに、被告人両名の弁護人は被告人高橋義夫の情状の点に関し、証拠となす事につき檢察官の同意を得た上、歎願書二通の各取調を請求したところ、檢察官は右取調請求については、異議がない旨述べたが、原審は右証拠について取調を爲すか爲さないかの決定もなく、取調をした旨の記載もないことは所論の通りである。

然れども、被告人伊藤治男については、右証拠は何等の関連性もないものであるから、相被告人高橋義夫のみに関係のある証拠調の適法又は不適法は、被告人伊藤治男についての判決には、毫も影響しないものである。從つて、弁護人の同被告人に対する控訴趣意は、全く理由がない。

よつて、被告人高橋義夫について、原審が、前記の通り、証拠調をしないことが違法であるかどうかについて判断する。証拠はすべて犯罪事実並に情状に関する事実を証明するに足るものでなければならないもので、控訴当事者又は第三者の單なる意見や希望のような事実に関係のないことを記載した書面は、証拠とすることができないことは、証拠法上疑問のないところで、かかる書面については、正式な証拠調を爲すことを要しないものである。而して本件記録に添付してある被告人高橋義夫に対する歎願書二通の記載内容を見るに「平素勤勉であつて、本件犯行を爲したことは意外に感じたか、將來充分監督するから御寬大に願う」とか、又は「平素の素行も惡くなく眞面目に働くものであるから何卒御寛大に願ひ、責任を以て本人の素行を監視する」との旨の記載があるのみで、事実に関するものでなく、歎願書作成者の意見又は希望を申出たものに過ぎないものであるから、これを証拠とすることはできない。原審が弁護人の取調請求に対し、これを却下する趣旨で、取り調べなかつたのは正当であるが、取調の採否の決定を爲さないで、放置したことは違法であるけれども、右違法は、本件判決に影響を及ぼすものでないから、論旨は理由がなく採用しがたい。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六條により、本件控訴を棄却し、主文の通り判決する。

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